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NASAが月周回ステーション「ゲートウェイ」を凍結 3兆円を月面基地建設へ

2026-03-29
NASAが月周回ステーション「ゲートウェイ」を凍結 3兆円を月面基地建設へ

NASAは2026年3月24日、月を周回する有人宇宙ステーション「ゲートウェイ」の建設計画を凍結すると発表した。代わりに月面に直接インフラを整備する方針へと転換し、今後7年間で約200億ドル(約3兆円)を月面基地の建設に投じるとしている。 ゲートウェイは月の周回軌道上に建設予定だった、いわば「月版の国際宇宙ステーション」だ。宇宙飛行士や物資を月面へ輸送する中継拠点として設計されており、アメリカを中心に日本(JAXA)、欧州(ESA)、カナダ、UAEなど多くの国が参加する大規模な国際プロジェクトだった。当初の構想では、宇宙飛行士はまずゲートウェイにドッキングし、そこから月着陸船に乗り換えて月面へ向かう予定だった。科学実験の場としても期待されており、将来の火星探査への足がかりとしても位置づけられていた。

なぜ凍結されたのか

背景にあるのは、慢性的な予算超過と遅延だ。NASAの監察総監室はすでに2020年の時点でコスト高や遅延のリスクを指摘しており、専門家の間からは「無駄遣いだ」という批判も以前からあった。さらにトランプ政権下で打ち出されたNASA予算の大幅削減がとどめを刺した。NASAの予算は2025年度の約249億ドルから2026年度は約188億ドルへと約24%削減が提案されており、これはNASA史上最大規模の単年度削減となる見込みだ。 限られた予算をどこに集中させるか──その答えが、月軌道ではなく月面だった。加えてSpaceXのStarshipのような大型ロケットの登場により、わざわざ軌道上の中継拠点を経由しなくても月面に直接アクセスできる手段が現実的になりつつあることも、ゲートウェイの存在意義を薄れさせた。NASAのアイザックマン長官は「大国間の競争は数年単位ではなく、数カ月単位で決まる」と述べており、中国への対抗意識が判断を急がせた面もある。

すでに作られたハードウェアと、各国への影響

画像 多くの人が気になるのが「じゃあこれまで作ってきたものはどうなるのか」という点だ。実はゲートウェイの主要モジュールはすでにかなりの段階まで製造が進んでいた。居住モジュール「HALO」はノースロップ・グラマンが約9億3500万ドルの契約で開発し、イタリアのタレス・アレニア・スペースで製造された後すでにアメリカへ空輸済みだ。ESAとJAXAが共同開発していた国際居住モジュール「I-HAB」はフランスで生産が進められており、カナダはロボットアーム「カナダアーム3」を開発中だった。何千億円もの資金と、複数の国・企業の年単位の労力がすでに注ぎ込まれている状態での凍結だ。NASAの公式見解は「転用する」というものだが、アイザックマン長官自身も月面基地への転用は簡単ではないと認めており、 月軌道用に設計されたモジュールをそのまま月面基地に流用できるかは技術的に大きな疑問が残る。ESAの事務局長は「どんな影響があるのかまだ疑問が残る」と述べるにとどめており、JAXAも引き続きアメリカとの対話を求めていく姿勢を示している。すでに完成に近いハードウェアが存在しているにもかかわらず使い道が宙に浮いたまま──関わってきた企業や国にとっては、契約の見直しや損失の交渉が続く後味の悪い幕切れになっている。

月面基地へ、そしてこの転換が意味すること

画像 NASAが代わりに目指すのは月の南極付近への恒久的な月面基地だ。まず探査機器や月面探査車を送り込んで技術を実証し、次に一時的な居住拠点を設置、最終的に恒久的な基地運用へと移行する3段階の計画が示されている。月の南極が選ばれているのは、永久に日の当たらないクレーターの内部に水の氷が存在する可能性が高く、将来の推進剤や飲料水の供給源として期待されているためだ。電力供給には小型原子炉の活用が想定されており、約14日間続く「月の夜」を乗り越えるための重要な技術として開発が進んでいる。日本はトヨタと共同開発する有人与圧ローバーを提供し、日本人宇宙飛行士2名の月面着陸機会を得る取り決めをNASAとすでに締結しているが、ゲートウェイの凍結がこの合意にどう影響するかは今後の協議次第だ。今回の方針転換は、NASAの月探査の姿勢が「訪問する」から「住む」へと明確にシフトしたことを示している。一方でゲートウェイには月面のどこへでもアクセスできる柔軟性があり、科学探査の観点からはその喪失を惜しむ声も残る。何千億円もかけて各国が協力して作ってきた計画が、予算と地政学の波に飲み込まれた形だ。

参考文献

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