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月探査

ispace、米国ミッション打ち上げを2030年に延期 新ランダー「ULTRA」と通信事業への転換も発表

2026-03-31
ispace、米国ミッション打ち上げを2030年に延期 新ランダー「ULTRA」と通信事業への転換も発表

日本の民間宇宙企業ispaceは2026年3月27日、これまで日本と米国の拠点でそれぞれ開発してきた2種類の月着陸機を廃止し、両者を統合した新型モデル「ULTRA」を発表した。あわせて、エンジン開発の遅延を受けた米国ミッションの打ち上げ延期と、月周回通信事業への参入も発表された。

2つの着陸機が1つになった

ispaceはこれまで月着陸機を日米で別々に開発していた。米国拠点では「APEX 1.0」、日本拠点では「シリーズ3」をそれぞれ独自に進めてきた。この2つが今回の発表で両方廃止され、統合した新モデル「ULTRA」に一本化される。 ULTRAの名前はラテン語で「超越」を意味する。過去のミッション1・2で使用した着陸機「RESILIENCE」をベースに、APEX 1.0とシリーズ3それぞれの技術を組み合わせて開発される。積載能力は約200kgで、今後ispaceが行うすべてのミッションでULTRAが使われる予定だ。2種類を並行開発するコストとリスクを一本化することで、品質と開発効率を大幅に高める狙いがある。

延期の経緯──エンジン問題が引き金に

この戦略転換の直接的な引き金となったのが、米国ミッションで搭載予定だったエンジンの開発遅延だ。 APEX 1.0にはもともと別のエンジン「A2200」を搭載する予定だったが、調達スケジュール内での供給が難しいことが判明。その代替として2025年5月に新たに開発されたのが「VoidRunner」だった。しかしこのVoidRunnerも要求性能を満たす燃料効率の実証に遅延が生じ、結果として二度目の代替エンジン変更を余儀なくされた。今回採用される新エンジンは過去の月探査ミッションで使用実績のある信頼性の高いものが選ばれており、前回より確実な選択といえる。このエンジン変更に伴う機体設計の見直しが、米国ミッションの打ち上げを2027年から2030年へと3年間押し戻すことになった。

更新されたミッションスケジュール

画像 この戦略転換に伴い、ミッションスケジュール全体が組み替えられた。順を追って整理する。 まず2027年には「ミッション2.5」として、月周回衛星1基を月の軌道に投入する。これは月面着陸ではなく、月と地球をつなぐ通信サービス事業の第一歩として位置づけられている。 次に2028年、日本拠点が主導する「ミッション3(旧ミッション4)」でULTRAによる初の月面着陸に挑む。これがispaceの次の月面着陸ミッションだ。一部報道で「2030年まで着陸なし」と伝えられたが、ispaceはこれを即座に誤りとして否定している。 2029年には「ミッション4(旧ミッション6)」として、月の南極付近への高精度着陸を目指す。 そして2030年、米国主導の「ミッション5(旧ミッション3)」でNASAの科学観測機器を月面に届ける。このミッションもULTRAを使用する予定だ。

月のインターネット基盤を目指す新事業

画像 今回の発表はスケジュールの変更と着陸機の統合だけにとどまらない。ispaceは月周回衛星を活用した通信・データサービス事業「ルナ・コネクト」への本格参入も打ち出した。2030年までに少なくとも5基の月周回衛星を展開し、月と地球をつなぐ通信インフラを構築する構想だ。KDDIとも基本合意書を締結しており、月面着陸機の輸送サービスだけでなく、月のインターネット基盤を担う企業へと事業領域を広げる方向性が鮮明になった。組織面でも日米で分かれていた開発体制をグローバルに統合する改革を同時に発表しており、今回の一連の発表は単なるトラブル対応ではなく、ispaceが次のステージへと踏み出す転換点として見るべきだろう。

参考文献

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