日本時間2026年4月2日午前7時35分、NASAの有人月ミッション「アルテミスII」のSLSロケットがフロリダ州ケネディ宇宙センターから打ち上げられた。4人の宇宙飛行士を乗せたオリオン宇宙船は無事所定の地球周回軌道に入ることに成功した。1972年のアポロ17号以来、54年ぶりとなる有人月飛行の幕が開けた。
実は打ち上げ直前、飛行終了システムとの通信ハードウェアに問題が発生し一時「ノーゴー」判定となった。しかしエンジニアチームがスペースシャトル時代の機材を活用して迅速に解決し、予定より約11分遅れで無事に発射に成功した。宇宙開発の現場では、こうした問題を即座に解決する経験と技術の積み重ねが打ち上げの成否を左右する。今回の打ち上げ成功は、2020年代の宇宙開発における最も重要なマイルストーンの一つだ。
今日の解説
打ち上げからおよそ8分20秒後にコアステージと上段の分離が行われ、軌道安定のためのエンジン噴射を2回実施。オリオン宇宙船の4基の太陽電池パドルの展開も予定通り完了しており、クルーの健康状態と精神状態は良好だとNASAは述べている。
打ち上げ直後には将来の月着陸船とのドッキングを想定した近傍運用のテスト(プロキシミティ・オペレーション)も実施された。これはオリオン宇宙船をロケット上段から切り離した直後に、宇宙飛行士が手動で宇宙船を制御して上段に接近・離脱する試験だ。将来の月軌道上でのドッキング技術につながる重要な検証で、初日からミッションは着実に進んでいる。
初日はおおむね順調に推移したものの、いくつかの出来事もあった。衛星のハンドオーバー中に一時的に地上との通信が途絶えたが、まもなく復旧している。また船内のトイレの不具合も確認されたが、NASAはいずれもテスト飛行で想定される範囲内としており、地上チームと協力して対処中だ。 そもそもアルテミスIIは「人が乗った状態でしか起きない問題」を洗い出すためのテスト飛行でもある。4人の宇宙飛行士が実際に船内で生活することで、呼吸・排熱・排泄といった人間の活動が宇宙船の環境制御システムに与える影響も初めてリアルなデータとして取得される。今日起きたあらゆる出来事が2028年の有人月面着陸に向けた貴重なデータになる。NASAが定めるアルテミスIIの5つの優先目標は「クルーの安全確保」「地上インフラから宇宙機器の運用検証」「飛行データの取得」「緊急時対応システムの実証」「各サブシステムの検証」であり、初日の出来事はすべてこの目標達成に向けたプロセスの一部だ。
明日以降の日程
打ち上げ後のミッションは大きく4つのフェーズに分けて理解するとわかりやすい。アルテミスIIは月面着陸を行わないとはいえ、月の裏側まで到達して帰ってくる10日間は決して単純な旅ではない。各フェーズにそれぞれ固有のリスクと確認事項があり、すべてをクリアして初めてミッション成功となる。以下、日程に沿って解説する。
フェーズ1:地球周回軌道での確認(4月2日〜3日) 今日から明日にかけて、オリオン宇宙船は地球周回軌道上に留まりながら生命維持システムや航法システムなど搭載機器の動作確認を行う。地球を周回しながら約24時間かけてすべてのシステムに問題がないことを確かめる重要なフェーズだ。4人の宇宙飛行士が実際に船内で生活することで、生命維持システムが有人環境で正常に機能するかを確認するこのフェーズは、アルテミスIの無人飛行では検証できなかった領域だ。ここで重大な異常が見つかれば月へ向かわず緊急帰還という判断もありえる。なお万が一の際の安全策として「フリーリターン軌道」が採用されており、主要システムが故障した場合でも地球の重力によって自然にオリオン宇宙船が帰還できるよう設計されている。
フェーズ2:月へ向かう(4月3日〜6日) すべてのシステムが正常と確認されれば、4月3日にオリオン宇宙船のエンジンを噴射して地球周回軌道を離れ、月へ向かう軌道(月遷移軌道)に入る。これがミッション最初の大きな関門だ。その後約4日間かけてゆっくりと月に接近していく。地球からどんどん遠ざかるにつれて通信の遅延も大きくなり、宇宙飛行士たちの自律的な判断がより重要になってくる。このフェーズではオリオン宇宙船を宇宙飛行士が手動で操縦するテストも改めて行われる予定で、緊急時に地上のサポートなしで宇宙船を制御できるかを検証する重要な工程でもある。また宇宙飛行士たちは放射線にさらされる深宇宙環境での活動を初めて経験することになり、クルーの体への影響も注意深くモニタリングされる。
フェーズ3:月フライバイ(4月6日〜7日ごろ) 4月6日から7日ごろにかけて、オリオン宇宙船は月の裏側上空6000〜9000kmを通過するフライバイを行う。このタイミングが今回のミッションのハイライトだ。地球から約40万6800kmの距離に到達する見込みで、1970年のアポロ13号による人類の最遠到達距離の記録を更新する可能性もある。 また月の裏側に入ると電波干渉のため約50分間にわたって地球との通信が完全に途絶する。この沈黙の時間が明けたとき、クルーは月の裏側を間近に見た人類として歴史に名を刻むことになる。
フライバイの数時間にわたる飛行中、宇宙飛行士たちは写真を撮影し月の表面を観測する予定だ。フライバイ時には月の裏側は部分的にしか照らされていないが、影が表面に長く伸びることで起伏が強調され、通常の撮影では検出が難しいクレーターの縁や尾根、斜面などが明らかになると期待されている。 地球から最も遠い地点では地球と月の両方を一枚の画像に収めることができる見込みで、その映像が届く瞬間も世界中が注目するポイントだ。
フェーズ4:地球への帰還(4月7日〜12日)
月のフライバイを終えると地球への帰還フェーズに入る。地球と月の重力を利用しながら燃料消費を抑えつつ約4日かけて戻ってくる。4月12日ごろ、オリオン宇宙船のクルーモジュールは大気圏に再突入し、パラシュートを展開してカリフォルニア州サンディエゴ沖の太平洋に着水する予定だ。
高度約122kmで大気圏に接触し、時速数万キロの摩擦により約3000度の高温とプラズマが発生し、一時的に通信が途絶える。その後パラシュートを順次展開して約27km/hまで減速し太平洋に着水する。着水後は浮き袋により機体を直立させ、乗組員の回収を待つ。
2022年のアルテミスIでは無人飛行にもかかわらず耐熱シールドに想定以上の損傷が見つかっていた。アルテミスIIでは耐熱シールドの設計は変えず、再突入時の軌道を変更することで対応する。軌道の調整で大気中に留まる時間を短縮することで、熱負荷の累積を抑えてクルーの安全を確保できると判断された。 初めて有人状態で試されるこの瞬間が、ミッション全体の最後の関門となる。着水が確認されれば、アルテミスIIは完全な成功となり、2028年の有人月面着陸へ向けた準備が本格的に動き出す。

