Blue Origin「New Glenn」事故がAST SpaceMobileの商用計画を直撃
Blue Originの大型ロケット「New Glenn」で発生した発射台での爆発事故が、宇宙通信スタートアップAST SpaceMobileの事業計画に深刻な影響を及ぼしています。投資銀行William Blairが発表したエクイティ・リサーチノートによると、AST SpaceMobileはこの事故の影響で自社の直接スマートフォン通信衛星コンステレーションの展開が3〜6カ月遅延すると見込んでおり、当初目指していた商用サービスの開始時期は2027年前半にずれ込む見通しです。
AST SpaceMobileは、一般的なスマートフォンに特別な改造を加えることなく、衛星から直接ブロードバンド通信を提供するという野心的なビジネスモデルを掲げている企業です。同社はNew Glennを衛星群の打ち上げ手段として契約しており、ロケット側の問題がそのまま事業全体のスケジュールに波及する構図となっています。
「直接スマホ通信」が注目される理由
既存の衛星通信サービスは、専用端末や特殊なアンテナを必要とするものが大半です。SpaceXのStarlinkも、現在は専用の受信ディッシュを用いる形態が主流であり、直接スマートフォンへの通信はT-Mobileとの提携で限定的なテキストサービスを展開している段階にとどまります。
これに対してAST SpaceMobileは、巨大な展開型アンテナを備えた大型衛星「BlueBird(ブルーバード)」を軌道上に多数配置し、地上の既存の携帯電話基地局が届かないエリアでも、ユーザーが手持ちの市販スマートフォンでそのままLTE/5G通信を行えるようにすることを目指しています。同社は2023年9月にテスト衛星「BlueWalker 3」を用いて、市販のスマートフォンとの間で初の5G通信接続に成功しており、技術的な実証は一定の段階をクリアしています。
この技術が本格的に実用化されれば、山間部や海上、発展途上国の通信インフラが未整備な地域など、世界中で約50億人とも言われる「モバイル通信の空白地帯」にいる人々に直接的な恩恵をもたらす可能性があります。AT&T、Vodafone、楽天モバイルなど世界各国の通信キャリアとMoU(基本合意書)や商業契約を結んでおり、日本市場とも無関係ではありません。
New Glennに依存するリスクが顕在化
AST SpaceMobileがNew Glennを打ち上げロケットとして選定した背景には、BlueBird衛星の物理的な大きさがあります。展開型アンテナを含む衛星1基あたりの面積は約64平方メートルに達し、質量も1基あたり約1,500kgと大型です。商用コンステレーション構築には数十基規模の衛星を効率よく軌道投入する必要があり、New Glennの大きなフェアリング(直径約7m)と低軌道への高い打ち上げ能力(約45トン)は、同社の要件に合致していました。
しかし、New Glennは2025年1月に初飛行を実施したものの、開発段階にあるロケットです。今回の発射台での爆発事故は、Blue Originにとってもロケットの信頼性確立に向けた大きな後退となりました。打ち上げ再開までの復旧作業やFAA(米連邦航空局)による事故調査が必要となるため、Blue Origin側のスケジュールが見通しにくい状況が続いています。
AST SpaceMobileは最初の商用衛星5基をSpaceXのFalcon 9で2024年9月に打ち上げていますが、Falcon 9のフェアリング容量では1回の打ち上げで搭載できるBlueBird衛星の数が限られます。本格的なコンステレーション構築をFalcon 9だけで進めるにはコスト・スケジュール両面で非効率であり、New Glennへの依存度は依然として高いのが実情です。
激化する直接通信市場と同社の今後
直接スマホ通信の分野は、SpaceXとT-Mobileの提携、中国のSpaceSailなど競合の動きが活発化しており、市場投入の時期が事業の成否を大きく左右します。3〜6カ月の遅延は技術的には致命的ではないものの、同社にとっては資金面でのプレッシャーが増す要因です。AST SpaceMobileは2024年にナスダック上場を果たしていますが、商用収益をまだ本格的に計上しておらず、打ち上げ遅延はそのまま収益化時期の後ろ倒しにつながります。
当面の焦点は、Blue OriginがNew Glennの打ち上げ再開をいつ実現できるかという点に集約されます。同時に、AST SpaceMobile側がリスク分散のためにSpaceXのFalcon 9やStarshipなど代替の打ち上げ手段を確保する動きを見せるかどうかも注目点です。
既に軌道上で稼働中の5基のBlueBird衛星は、AT&Tなどとの限定的な商用テストに使われていると見られますが、グローバルな商用サービスに必要な衛星数には遠く及びません。技術実証では先行する同社が、ロケット側の制約というボトルネックをどう乗り越えるか。2027年前半とされる商用サービス開始目標が再び動くことがないか、今後の打ち上げスケジュールの確定が待たれます。

