マクセルとJAXAが全固体電池の共同研究を正式開始
マクセル株式会社は2026年6月4日、JAXA(宇宙航空研究開発機構)が2025年に新設した「JAXA宇宙技術実証加速プログラム(JAXA-STEPS)」の2025年度公募において、同社の提案「宇宙機ミッションを最大化する高耐熱全固体電池の開発」が採択されたと発表した。これにより、マクセルとJAXAは宇宙機搭載向け全固体電池の共同研究を正式にスタートさせた。
全固体電池とは、従来のリチウムイオン電池で使われる液体電解質を固体材料に置き換えた次世代電池のこと。液漏れのリスクがなく、耐熱性・安全性に優れるとされ、地上では電気自動車向けの量産技術開発が急速に進んでいる。今回の研究はこの技術を宇宙環境に対応させることを目的としている。
宇宙機の電源が抱える構造的な課題
現在、多くの人工衛星や探査機には液体電解質を用いたリチウムイオン電池が搭載されている。この電池は高エネルギー密度という長所を持つ一方、温度変化に弱く、宇宙空間特有の極端な熱環境——日向では100℃超、日陰では-100℃以下にもなる——に対応するためには断熱材や温度制御システムが不可欠だった。
こうした付帯装置は衛星全体の質量を押し上げる要因となる。特に近年急増している小型衛星(重量100kg以下のクラスを指すことが多い)では、電源系統のわずかな重量増加が打ち上げコストや搭載できるミッション機器の量に直結する。電源系統の軽量化は、小型衛星開発における長年の技術的課題のひとつだ。
さらに液体電解質電池は形状の自由度が低く、衛星の限られた内部空間に効率よく収めるための設計制約にもなっていた。全固体電池はその構造上、形状の柔軟性が高く、スペースの有効活用という面でも期待されている。
JAXA-STEPSとは何か、採択の意味するところ
JAXA-STEPSは、JAXAが2025年度に新設した産業界との共同研究プログラムだ。民間企業が持つ革新的な要素技術を宇宙実証へ向けて加速させることを目的としており、採択された企業はJAXAの技術・施設・知見を活用しながら研究を進められる仕組みとなっている。
今回マクセルが採択されたテーマは「高耐熱全固体電池」であり、宇宙の過酷な熱環境に耐えられる電池の実現が研究の核心となる。マクセルはもともと国内電池メーカーとして一次電池・二次電池の双方で実績を持ち、産業用・医療用向けの小型高信頼電池の開発経験がある。その技術基盤をJAXAの宇宙環境試験インフラと組み合わせることで、実用化までの期間を短縮する狙いがある。
共同研究で実証を目指す主な性能指標は、現時点では「高耐熱性」と「軽量化・設計自由度の向上」の2点が明示されている。具体的な動作保証温度範囲やエネルギー密度の目標値については、今後の研究フェーズで詳細が明らかになる見込みだ。
国際的な宇宙用電池開発の潮流と日本の位置づけ
宇宙機向け電源技術の刷新は、日本だけが取り組んでいる課題ではない。NASAやESAも次世代電池の宇宙応用を研究しており、特に月面・火星探査で必要となる長時間・大温度差環境への対応は国際的な共通課題となっている。
また、Starlink(スペースXの衛星インターネット網)や中国のQianfan(千帆)コンステレーションに代表される大規模衛星コンステレーションの急拡大は、衛星1機あたりのコスト低減圧力を急速に高めている。電源系統のコンパクト化・軽量化は、コンステレーション競争における競争力にも直結する要素だ。
国内では、ispace(アイスペース)が月面探査機の開発を進めるなど、民間の宇宙事業が拡大しつつある。こうした動きと並行して電源技術の国産化・高度化を進めることは、将来の日本発宇宙ミッションのサプライチェーン強化という観点からも意義が大きい。
今後の研究フェーズと実証への道筋
今回の採択はあくまで共同研究の開始であり、実際に衛星へ搭載・実証するまでにはいくつかのステップが残る。まず地上での耐環境試験(熱真空試験・放射線照射試験など)を経て、性能が確認された後に軌道上実証の機会を検討する流れが一般的だ。
JAXA-STEPSの枠組みでは、採択テーマについてJAXAが軌道実証機会の確保を支援することも想定されている。ただし実証衛星への搭載や打ち上げ時期については現時点で具体的なスケジュールは公表されておらず、研究の進捗次第となる。
全固体電池が宇宙で実用化されれば、衛星の熱制御システムの簡素化、搭載機器の増量、あるいは衛星本体のさらなる小型化という連鎖的なメリットが見込める。地上の電池産業で蓄積された日本の技術が宇宙分野でどこまで競争力を発揮できるか、マクセルとJAXAの共同研究は一つの試金石となる。




