FAAがStarship打ち上げ再開にミシャップ調査の完了を要求
出典: NASA/KSC
米連邦航空局(FAA)は2026年5月27日、SpaceXが5月22日に実施した大型ロケット「Starship」のFlight 12について、同社主導のミシャップ調査(mishap investigation=事故・不具合調査)が完了するまでStarshipの打ち上げ再開を認めないと発表しました。FAAはFlight 12の飛行データおよび結果を分析した上でこの判断に至ったとしています。
StarshipはSpaceXが開発する全高約120m・推力約7,500トンの超大型ロケットで、NASAのアルテミス計画における有人月面着陸機としても採用されています。Flight 12は通算12回目の飛行試験にあたり、テキサス州ボカチカの「スターベース」から打ち上げられました。FAAが打ち上げ後わずか5日で調査要求を出したことは、Flight 12で何らかの想定外の事象が発生した可能性を示唆しています。
Starship飛行試験の経緯とFlight 12の位置づけ
出典: NASA/KSC
Starshipの飛行試験は2023年4月のFlight 1から始まりました。初期の試験では第1段ブースター「Super Heavy」と上段「Ship」の分離失敗や機体の喪失が相次ぎ、FAAはそのたびにミシャップ調査の完了を打ち上げ再開の条件としてきました。
2024年後半から2025年にかけて、SpaceXは飛行試験のペースを加速させています。特に2025年には、Super Heavyブースターの発射台での「箸キャッチ」回収を複数回成功させ、Shipの制御された大気圏再突入と着水にも成功するなど、着実に技術的マイルストーンを積み重ねてきました。Flight 12はこうした一連の試験飛行の延長線上に位置し、運用に向けた最終段階の検証が進められていたとみられます。
FAAによる打ち上げ停止措置はStarship計画において珍しいことではありません。過去にもFlight 1からFlight 2の間に約7カ月、Flight 2からFlight 3の間にも数カ月の調査期間が設けられました。ただし、近年は調査期間が短縮される傾向にあり、Flight 9以降は比較的短いインターバルでの飛行が続いていました。今回の調査要求は、この加速傾向に一時的なブレーキをかける形となります。
SpaceX主導の調査とFAAの監督体制
FAAのミシャップ調査には大きく2つの形態があります。1つはFAA自身が主導する調査、もう1つは打ち上げ事業者が主導しFAAが監督する調査です。今回はSpaceX主導の調査とされており、これはFAAがFlight 12の事象を「壊滅的な公共安全上の脅威」とまでは判断していないことを意味します。
SpaceX主導の場合、同社は飛行データの詳細な分析、不具合の根本原因の特定、そして是正措置の策定を行い、その結果をFAAに報告します。FAAはこの報告内容を審査し、是正措置が十分であると判断した場合にのみ、次回飛行のライセンスを発行します。
SpaceXのイーロン・マスクCEOはこれまで、FAAの規制プロセスがStarship開発のペースを制約していると繰り返し批判してきました。2024年にはFAAのライセンス発行の遅れに対して公式に異議を申し立てた経緯もあります。一方、FAAは商業宇宙打ち上げにおける公共安全の確保が最優先であるとの立場を堅持しています。今回の調査においても、両者の間でスケジュール感をめぐる緊張が生じる可能性があります。
アルテミス計画への波及と今後の見通し
Starshipの飛行試験スケジュールが遅延した場合、最も直接的な影響を受けるのはNASAのアルテミス計画です。StarshipはArtemis IIIおよびArtemis IVにおいて有人月面着陸システム(HLS:Human Landing System)として使用される予定であり、NASAはSpaceXに対しHLS型Starshipの無人月面着陸デモンストレーションを運用開始前に求めています。
飛行試験の頻度が下がれば、軌道上での推進剤補給技術の検証や、長時間の宇宙空間での機体運用試験といった残りのマイルストーンの達成も後ろ倒しになります。アルテミス計画全体のスケジュールはすでに複数回にわたって見直されており、Starship側の進捗はその最大の変動要因の一つとなっています。
Flight 12で具体的にどのような事象が発生したのかについて、FAAおよびSpaceXはいずれも詳細を明らかにしていません。今後数週間のうちに調査の中間報告や追加情報が出る可能性があり、その内容次第で打ち上げ再開までの期間が大きく変わることになります。SpaceXはこれまでの調査では比較的迅速に是正措置をまとめ、FAAの承認を得てきた実績がありますが、不具合の深刻度によっては機体設計の変更を伴う長期の対応が必要になるケースも否定できません。
宇宙開発における「失敗」は技術的知見を蓄積する上で避けられないプロセスである一方、FAAという規制当局が介在する以上、その都度、安全性の証明が求められます。Starshipが真の運用段階に移行できるかどうかは、こうした調査と改善のサイクルをいかに効率的に回せるかにかかっています。




